パクトラタミヤの古い瓶を求めて
06/5/23
モリナガ・ヨウ氏のイラスト・エッセイに取り上げられていることからもわかるように、表面に彫刻の入ったパクトラタミヤ(エナメル塗料)の古い瓶に特別な思いを抱くのは私だけではないはずです。 「ミリタリー・ミニチュアシリーズ」の「第一次黄金期」(第二次があったとして)に少年時代を過ごした多くのモデラーにとってそれは記憶の中で静かに光を放つ存在なのではないでしょうか。 私があの瓶をCGで作ろうと思うようになったのも自然な流れだったのかもしれません。
パクトラタミヤの古い瓶を探している、という話をすると、そんなものはうちの引出しの奥にいくらでも転がっているよ、と人は言います。 私もパクトラタミヤの古い瓶が見たい、と思い立った当初そう考えました。しかし残念ながら私のがらくた箱の中にはいくら探しても1個も転がっていませんでした。 古いタイプの瓶が転がっていると思っていたのはじつは山猫の魔法か何かによる幻影で、いざ探そうと思うときにはそれらはことごとく 表面がつるつるの、より新しいタイプの瓶に変わっていることが多いのです。
しかしすべての古い瓶が幻影というわけではなく、私は2003年の静岡ホビーショーのクラブ合同展でそれを見つけることができました。 古いタミヤの戦車などのコレクションを毎年出展されるクラブの展示の中にあったのです。そのクラブの方の協力を得て、CG制作の資料とするに十分な写真を 撮ることができました。ところがその直後ハードディスクが壊れデータを失ってしまい、私の懸案は続きました。
今回「オープンハウス」中のタミヤ本社で訊いてまわり、3人目に尋ねた方は笑いながらこともなげに「ありますよ。」と言われました。 完成見本製作用の机の引出しから出してこられたのは紛れもなくあの彫刻の入った瓶でした。しかし私の記憶にあるものとは少し違います。 あの頃のあれは本体にラベルは貼られておらず、紙の筒状のケースに入っていました。また金属製キャップはパクトラ社のオリジナルのものがそのまま使われていて、 日本語が印刷された丸いシールがあとから貼ってありました。(このように。)出てきた瓶は彫刻の無い新型の瓶に移行する前の過渡期の製品のようでした。 とはいえ、本体はまさにあれなのでこれでやっと懸案は解決することになりました。 親切にも瓶を探してくださったスタッフの方に感謝します。
ところでこの瓶の中身は暗い色(メタリック・グレー?)だったので写真に撮ると表面の彫刻がわかりにくいのではないかと思いました。 そこでその親切なスタッフの方に明るい色はありませんかと尋ねたところ、「ありますよ。」と言われ、また笑いながら出してこられたのは 彫刻の無いつるつるのタイプでした。山猫の恐るべき魔力はこんなところにまで及んでいたのです。
ともあれ、油断すると消えてしまう幻影のような瓶ゆえに、またデータを失う前にと、静岡から戻った2日後あわててアップロードするのでした。