護衛艦一般公開 - 神戸港・摩耶埠頭 07年5月 その1

その1 その2 その3

07/6/1

2007年5月12日神戸港・摩耶埠頭で海上自衛隊護衛艦「あさかぜ」「うみぎり」「さみだれ」3隻の一般公開が行われました。ここに載せる写真は、 そのときに撮影したものです。

摩耶埠頭の巨大なコンテナクレーンと「あさかぜ」「うみぎり」の艦影が重なり異様な迫力。

一方「さみだれ」(むらさめ型) が接岸する部分には視界をさえぎるものは何も無く、未来派風の鋭いフォルムが剥き出しに。(もちろん本当はステルス性を持たせるための必要があってのかたちでしょうが)

「あさかぜ」艦上より見た「さみだれ」。背景に見えるのは東灘・六甲アイランド

その2 その3 Index

昼ちかくなって多くの人で賑わう中撮影していると、どこかから「さみだれやて。悲しい名前やな。」 という声が聞こえてきたので笑ってしまいました。

「さみだれ」という語感からそぼ降る雨を思い浮かべると、たしかに「かなしい」あるいは「さびしい」雰囲気を感じ取るのもわかります。だがまてよ、さみだれ(五月雨)って本当はどんな雨のことだろう? と思って帰ってから調べると、五月というのは旧暦の五月のことで、今の暦でいうと五月ではなく六月に降る雨、ようするに梅雨のことだということがわかりました。

そうするととくに弱い雨というニュアンスは無く、「かなしい」という印象のある言葉ではないのではないでしょうか。むしろ初夏のいろいろな植物や昆虫のエネルギー溢れる様子から力強い印象を受けます。

阿川弘之『軍艦長門の生涯』の中に日本の軍艦の名前の付け方について印象的な話が出てきます。この本の中でも、私が好きな部分です。一部引用します。

海軍の艦艇には、あまり勇ましい名を持ったものがない。真珠湾マレー沖の大戦果以後、報道部あたりを中心にして、相当おしゃべりの海軍になったけれど、もともと海軍は、「サイレント・ネイビー」と呼ばれるのを誇り として来た。肩をいからせての大言壮語をきらう風があって、それが軍艦の名前にも反映している。
 古く明治年代には、吉野、龍田、須磨、明石。三景艦と称する松島、厳島、橋立もいたし、日露戦争の花形戦艦では朝日、初瀬、三笠。
 第二次大戦中の艦艇でも、巡洋艦衣笠、青葉、五十鈴。砲艦宇治、嵯峨、伏見。駆逐艦卯月、水無月、夕霧、春雨、野分、菫(すみれ)。
 戦争の末期、春月、宵月、夏月、花月が相ついで竣工した時、
「なんだ、待合の名前ばかりつけやがって」
 と言った人があったが、「振武」とか「栄光」とかいった名の軍艦は一隻もいない。

阿川弘之氏が軍艦の名前を挙げるとき、ひとつひとついつくしむような気持が感じられる気がします。

この導入部に続いて比較のため外国や陸軍の傾向を紹介したあと、当時造船大尉だった福井静夫氏 がシンガポールで日本海軍の手に落ちた英国貨物船「レイク・シャンプレイン」に名前をつけたときの逸話が取り上げられています。『軍艦長門の生涯』から、 さらに一部を(飛び飛びに)引用します。

 福井は子供の時からの軍艦マニヤだから、分捕船には原名にちなんだ名前をつける習慣を知っていた。意味の上か音の上で、もとの船名の ニュアンスを残しておくのが、海軍のしきたりである。シャンプレイン湖は、アメリカのバーモント州からカナダに続く細長い湖で意味といっても 別にないから、
「音をもじって、連勝丸にしようじゃないか」
 と、担当部員福井大尉の発案で、名前は一応連勝丸と決った。第101工作部の造船課長玉崎担中佐は、たまたま出張中であったが、図面は すべて「連勝丸」で処理されはじめた。
 何日かして、玉崎中佐が出張から帰ってきた。図面の「連勝丸」を見ると、中佐はひどく不機嫌になり、
「なんだ、このみっともない名前は?もうちっとスマートなのを考えろ」
 と文句を言い出した。

中略

「絶対いかん。品が悪い」
 と言って承知しない。福井大尉はしかたなく、「レイク・シャンプレイン」もういちどもじり直して、「麗昭丸」なる名前を考え出した。

中略

まだ海軍生活の浅かった福井は、この時初めて、海軍では野暮はきらわれること、「連勝丸」だの「勝利丸」だのというフネの名前は認められないことを悟った。

中略

 第101工作部は、「麗昭丸」の名で拿捕船の改装工事をすすめることになり、その報告をしようとしているところへ、ようやく中央から、 この船を「朝嵐丸」と命名する旨の正式通達が来た。「Lake Champlain」は「レイク・チャンプレイン」と読めないこともない。 「朝嵐」は「チャンプレイン」の語呂合わせのようであった。

中略

 駆逐艦は天象、気象、または植物の名前をつけた。したがって、海の狼の駆逐艦が、陽炎とか涼波とか、前出の宵月夏月、或いは初雪吹雪、椿、早蕨(さわらび)など、 たいへんやさしげな名前を持っている。

こういった感覚からすると、「美しい国、日本」とか、「国家の品格」などというフレーズはどちらかというと野暮の領域に入ってしまうのではないか、 と私は思います。

その1 その2 その3 Index